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甘寧  興覇
sonken-bundai

甘寧ノ巻第十章  〜濡須口の激戦(激突)〜



甘寧は、至って冷静だった。いつものように食事をして酒を飲んでいた。
しかし、他の兵となると、そうもいかない。皆、意気消沈していた。
無理もないだろう。百人だけで大軍に攻撃。死にに行くようなものである。
だが、甘寧の魅力というものは、こういう時にこそ生かされた。
甘寧と一緒に従軍することになった都督は、うつ伏せていた。
都督も兵たちと一緒で、命が惜しいようである。
ここで甘寧は、都督に一喝した。
「貴方は私よりも殿に優遇されているはず。何故私は死を惜しまないのに、
優遇されている貴方は死を惜しむのでしょう。」
それを聞いた都督は、ついに腹を括って、戦うことを決意した。
それにより、意気消沈していた兵士たちも燃え滾り、最強の軍と化した。
ちなみに、甘寧とその兵たちは何故か兜にアヒルの羽を刺していた。

夜、甘寧とその配下の百兵は、魏軍の本陣に突撃した。
とにかく敵を斬って斬って斬りまくった。鬼神の如く戦った。
甘寧の兵たちは瞬時に敵か味方かを見分けており、攻撃速度も凄まじかった。
何故、敵か味方かを瞬時に見分けれたかは、アヒルの羽に秘密があった。
アヒルの羽を頭につけているのを味方、それ以外を敵と判別して、
あとは何も考えずに斬る。単純な策だが、アヒルの羽が重要な要素にもなった(笑
いきなり猛攻撃を掛けられた魏軍は、訳も分からずに死んでゆく者多数だった。
大変な犠牲を出したあとに、やっと魏軍は収拾がついてきた。
そして、いきなり攻めてきた軍を判別するために松明を、星の如く掲げた。
しかし、奇妙なことに、陣には誰もいない。味方とその死体しかない。
そう、甘寧たちは散々荒らしまわったあとに、敵の収拾がついた直後に、
さっさととんずらしていったのだった。
こうして、甘寧は一兵も失わずに敵に決定打を与えた。
敵は誰の攻撃によってこんな有様になったのかすら、分かっていなかったという。


もはや、この甘寧の急襲は芸術と言ってもいいだろう。
甘寧のこの活躍に、孫権は
「曹操には張遼がおり、私には興霸がおって、釣り合いが取れているのだ」
と言って大変な喜びようだった。魏に張遼あり、呉に甘寧あり、ってとこ。